ゆらゆらと揺らめいている。

真っ直ぐに思えていた線はいつの間にか何処かで傾き
知らず知らず大きなズレを生じさせていた。



今すぐそれを直せと言われても前にいた場所がどこかも分からず、迷走しながら進んでいて、
ケシゴムのように容易く消せればいいのにと、考えてしまう程にぎこちない言葉、態度、表情、
今の心を映すように全てが作り物に変わっていく。



in the cause of one another





その声に窓の外を見つめていた目線を相手へとむける

「何?バルフレア」

「もうそろそろ出発するみたいだぞ」

「うん、分かったわ」

支度をするにバルフレアは心配そうに尋ねる

「大丈夫なのか?」

「何が?」

「色々とだ、不安なら俺が行くぞ」

「バッシュも居るじゃない。それに心配しないで、割り切るから」

「なら、気をつけて行って来いよ」

「ええ、行ってきます」


外に続く廊下を進み深呼吸をする。
今日はこれからモブ討伐に行くのだ、それもバッシュと二人だけで。
他の皆はそれぞれ役割を持ち私達は物資調達のために戦いへと向かう。


察していたバルフレアが一言声をかけてくれただけで、誰も私たちの内情を知るわけはない。
戦いに出ればそんな感情に縛られて行動する訳でもないし、もしかしたらこれがきっかけで
元の様な二人になれるかもと何処かで考えていた。


でも、その姿を目の前にした時、高鳴った心臓だけは隠すことは出来なかった。

覚られないように繕った笑顔でおはようと声をかけ、普通の会話をし普通の素振りをして。
感情を押し殺して歩き出した。





目的の場所に着くなり討伐モンスターを発見し呼吸を整え剣を構える。
静かに近寄りながら心から感情と言う名の色を消してゆく。

モノクロの世界が広がり自分の意識は奥底へと沈めて―


ぐっと剣の柄に力を込め強くそして一太刀勢い良く振り下ろした。命を断つ音が剣から手へそして身体全体へと
連鎖反応のように押し寄せる。それでも倒れない敵に攻撃を繰り返し、やがて辺りがシィンと静まり返った。


鼻に届いた血の匂い、手についた血痕。それでも今の私にはそれは赤には見えない。
集まり始めた敵が次々と襲ってくる、背中合わせに感じる彼の存在。

戦友であり友であったなら普通にこうして共にいられただろう。
そして『大切な人』と特別な感情は抱かず素直にそう伝えられたかもしれない。



そうなれた筈なのに女である私は違う道を選んだ。


彼の隣にいたいと望んでしまった。







「――ッ・・・・はぁ・・はぁ・・っ」

、大丈夫か?」

「ええ、心配しないで」



散漫になる意識を断とうと無我夢中で剣を降り続ける。
早く終わらせなければ体力もこのモノクロの世界も切れてしまう。

生半可な優しさを持った自分が表に戻ってくればきっと明確な判断も冷静な対処も出来なくなってしまうから。

けれど、勇み過ぎたその足は前へと進んでいて、背に感じていた存在もいつしか無くなっていた。
自分が離れていた事に気がつき後ろを振り返った時、世界は鮮やかな色を取り戻していく―


私が居るはずだった場所に敵が居て、そして後ろをむいたままの彼の姿――



蓋をしていた心と感情、湧き上がる思いは止める事など出来ずに






「――――バッシュ!!!!!」






ドスンと、鈍い音。そして感じたぬるりとした感覚と広がる痛み。
振り返るバッシュの姿を見て、安心した。傷ついたのは彼じゃなかったんだと。



「良かっ・・・た・・・」


モンスターと対峙するように離れ、そしてゆっくりと後ろへ静かに倒れてゆく身体。


!!!!」


彼女のその姿を見ても尚、何かの間違えだと否定し続ける俺の心。
地面に着くその前にその細い身体を受け止め抱きかかえる。



「しっかりしろ、!!」


バッシュの必死の呼びかけにもの返事はなかった。
血の気の引いている顔、微かに震えている唇。そして周りには未だ敵が数匹残っていた。


ギリッと噛んだ唇から血が滲む、怒りに震えた手で剣を握り飛掛かってくるモンスターを切り倒してゆく。
腕の中に居たは振動で意識を取り戻し開いた眼が見つめた必死な彼の顔。


「・・・・」

動かす事のできた片方の手ではバッシュの胸元を押した。

「?!

そしてもう一度、今度は強く―


「行っ・・・・・・て。。。。」

「ッ!!」


私は貴方を助けたかった、なのにこんな所で私を庇っていたら貴方まで怪我をしてしまう。
そうなって欲しくないからこうなったのに。



「―早・・・く・・・行って」


そう告げる彼女の瞳は、今まで戦場で見たことのあるものだった。
選択しろと心が告げる―今までと同じように目の前の人間を、彼女を、捨てるのか否か―





だが――今の俺に迷いなど無かった。


「・・・、我慢してくれ」

「・・・・・」


バッシュが自分の言わんとした事を理解してくれたのだと思いは静かにその瞳を閉じた。


「!?―ッ」

直後、身体に激痛が走り強制的に開けられた瞼、身体は大地を離れ宙に浮き、
代わりに触れているのはバッシュの身体。


「助けてみせる、だから耐えてくれ

戦う事を捨て、敵に背を向け走り出したバッシュ。


支える手に力が入るのを感じは歯を食いしばり痛みに呻きそうになるのを必死に堪えながら
力の入らない手を彼の首へと廻した。

彼に剣を教えてもらい戦えるようになった。そしてその剣で彼を助ける事が出来たと思ったのに私は――――-。


私は、、、―――――-。






痛みを感じぬほどに朦朧とする意識の中で降ろされる感覚と彼の声が遥か遠くから空耳のように聞える。
僅かに動く唇でバッシュに言葉を紡ごうとする。

何かを伝えようとしているのは分かってもそれを言葉として聞くことが出来ない。
あまりにも微弱でそれがかえって焦燥感を煽りバッシュは懸命に彼女の名前を呼ぶ。


「クリスタルに着いたんだ、触れるか?、、、!!!」


頬に手を置き弱々しくも整ったその顔を揺らす。
しかし不自然に白い肌、紅をさした様だった唇は命の色を失いゆっくりと塞がれてたまま動かなくなる。


!これで助かるんだぞ!・・!!!」


助けてやるといったんだ、それは失いたくないと本当に思ったからだ。
嘘じゃない、嘘などない、心に感じたこの思いは偽りじゃない!


「助けると言ったんだ・・・っ」

無我夢中での身体を掴み引き寄せ、自分の身体ごとクリスタルへと押し付ける。
フワリと周囲に大きく広がる暖かく優しい光――触れ続け止む事のない癒しの風、
その風が彼女の傷を消し、柔らかな髪を小さく動かす事をあっても、反応してくれない肢体―




「・・―助け・・・たいんだ・」


彼女を―


「助けてくれ・・・を」


お願いだ―


「目を、開けてくれないか?・・・」


慈しむように強い想いで優しくその頬を両手で包み込み、苦しみで潰れそうな声で愛しい人の名を呼ぶ。


「。。。。。お願いだ・・・」


髪の間を分け入るように手を滑らせ頭を抱きかかえるように彼女の身体を覆いつくす。
自分の頬がの柔らかい頬に触れる。




今更気付いたところで何が言えようか、もはや全てが手遅れなんだ。。。。


「・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・」


スッ・・・・・―と。




感覚の麻痺している自分の背中に感じた何か。
それがもう一度上から下へと降り何度も何度も繰り返えされる。








そして小さく微かに聞えた自分の名を呼ぶ、あの人の声―――


「・・・バッ・・・・・シ・・ュ」

幻聴ではないか、幻覚ではないか確かめるようにその名を呼ぶ。

「・・・・・・?」

「大丈・・夫よ・・・私・・・」


身体を離し確かめるようにその顔を覗き込む。僅かだが開いた瞳、小さくだが微笑む口元、間違いなく彼女だった。


、、

「心配。。。かけて、ごめんな。。。さい」



「大丈夫よ・・・心配しないで・・・・・」

「、、、ああ、、、」

「だから、もう・・泣かないで、バッシュ」

頬に触れる指先が流れた跡をそっとなぞってゆく、言われて初めて気付いた自分の涙―


「助けてくれて、、、ありがとう・・・」

「違う、助けられたのは俺だ」

「そんな事ない、あなたが無事だったからこそ、、私が生きていられる」

・・・・」



そこにいたのが“貴方”だったからこそ、苦しい思いをし

そして

そこにいたのが“貴方”だったからこそ、強くなれた。



「ただ、護りたかったんだ俺は君を。が俺を救ってくれたように」

「そう、、、ね。私も貴方を護りたかった」







―同じだったんだ、この想い。

そう、二人ともその存在を失いたくなかった。



ただ、それだけだったんだ―――-









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